学校での悩みを聞いてほしい
〜高校生1年生Dさんの場合〜

中学3年間を不登校で過ごしたDさん。
高校入学をきっかけに、学校に行けるようになりました。
毎日がんばってがんばって登校していたDさんですが、同級生や先生とのやりとりでモヤモヤしてしまうことも…
中学生の頃のDさんは、人とのやりとりでモヤモヤすると、「きっと相手はこう思っているんだ」と悪いように思い込んでしまい、相手との関係が悪くなったり、学校へ行きづらくなったりしていました。学校の先生が思い込みであると伝えたり、相手との関係を良くするためにアドバイスしたりしても、頑なに受け入れないのです。
サポート教室かたつむりには、高校に入学した頃、学習フォローを目的として通うようになりました。初めは学習中の休憩時間に学校でのできごとを話していたDさんですが、次第に「話を聞いてほしい」との訴えが多くなったため、保護者とも相談し、授業時間の半分を「お話の時間」にするようになりました。
Dさんは、週1回の授業に、1冊のノートを持ってくるようになりました。ノートには、その日その日のできごとやDさんの思ったことが、1週間分びっしりと書いてありました。そして、そのノートを見ながら、口をはさむ隙もないほどの勢いで話し続けるのです。
初めの数ヶ月は、ただひたすらDさんの思いを受け止めました。「Dさんはこう思ったんやね」「Dさんはそれで腹が立ったんやね」と、Dさんの思いを整理しながら、話を聞きます。これまでも、周囲の大人から諭されたりアドバイスをされたりしても、それを「自分への否定」と受け止めてしまい、受け入れることのできなかったDさんです。「それは、Dさんの誤解では?」「こう行動したらいいんじゃない?」と思うことはあっても、それを伝えることはしませんでした。
そうして数ヶ月経った頃、「どうしたらいいと思う?」「相手はなんでこう言ったのかな?」と、Dさんの方から助言を求めるようになってきました。でも、こちらから「こうしたらいい」など、直接的な答えをいうことはしません。与えられただけの答えは、本当の意味でDさんのためになりません。Dさんが自分で考え行動してこそ、Dさんの力になるのです。
そこで、「Dさんはどうしたい?」「Dさんはどう思うの?」と問いかけるようにしました。また、Dさんの話を整理することで、物事にはいろいろな側面があることに気づいてもらうようにしました。
初めは自分の出した答えに自信のない様子だったDさんも、何度か成功する体験をし自信がついたようで、積極的に「こう行動してみよう」と考えられるようになりました。また、自分から物事の別の側面について考えられるようになり、「もしかしたら相手はこう思っていたのかも?」と、いろいろな方向から考えてみるようになりました。
Dさんが教室に持ってくるノートは2冊に増えました。1冊は日々のできごとを書くノート。もう1冊は「お話の時間」に気づいたことや次の1週間の目標を書くノート。初めは否定的な内容ばかりだったノートには、だんだんと前向きな言葉が並ぶようになりました。怖くて苦手だった先生と話せるようになり、友だちと休憩時間を過ごすようになり、学校行事を楽しむようになりました。
今、Dさんは高校を卒業し、飲食店で働いています。初めての就職は大変なこともあるようですが、自分で解決し、仕事に趣味にと、日々を充実させているようです。


